スタッフブログ

2020年04月14日 (火) 能楽関連

名人が選んだ装束 / 常設展「はじめての能・狂言」装束コーナーのご紹介

横浜能楽堂の2階ロビーに展示スペースがあるのをご存知でしょうか? 普段は能楽に関する資料等の展示を行っており、施設見学や公演等でご来館のどなたでもご覧いただけます。

 

常設展「初めての能・狂言」では、謡本(うたいぼん/能の台本)や扇、楽器、装束などを展示しています。

 

このところ臨時休館で非公開となってしまっているのがもったいない!ということで、常設展「はじめての能・狂言」の装束コーナーをご紹介します。

 

実は、現在展示されている装束は、山口能装束研究所さんからお借りしている貴重なもので、江戸時代に作られた能装束を調査し復原したもの。絹糸の種類から染料、織り方まで、独自の研究により江戸時代のものに近い素材・技法で作られています。

 

いま展示されているのは、三領の厚板(あついた)。厚板とは、小袖の一種で、もとは地厚な綾織物を指していたというもの。能では、高貴な武士や荒神鬼畜などの役に使用します。大きめの力強い意匠のものが多いのが特徴です。

 

今回の三領には、ある共通点があります。それは、いずれも能「山姥」という同じ曲で使われたことがあるという点。能では、曲や役によって装束の種類や文様に決まりごとはありますが、実際に使用する装束の選択肢は多様で、演じ手は、自分が表現する舞台にふさわしい装束を、それぞれの感性で選びます。

 

能「山姥」に登場するシテは、山深くに住み、山から山を廻り歩くという異形の鬼女。恐ろしいというよりは、不思議になつかしくあたたかい、森羅万象の化身のような大きな存在。そんな「山姥」に、かつて名人とうたわれた三名の能楽師は、以下の装束を選んだのだそうです。(展示では、実際に装束をつけた舞台の写真もご紹介しています。)

 

「輪宝雲気稲妻杉木立文様」…観世榮夫(観世流|1927-2007)

 

「山形地鱗華紋文様」…三川泉(宝生流|1922-2016)

 

「青海波地丸龍雲気文様」…今井泰男(宝生流|1921-2015)

 

三領とも迫力ある大胆な文様・色遣いが印象的ですが、間近に接してみると、強い見た目とは裏腹に、なんともいえない温かみも感じられます。繊細で味わい深い、この豊かな質感を、ぜひ近くで生で体験していただきたいです。

 

こちらの装束は7月初旬まで展示の予定。臨時休館があけて、安心して外出できるようになった際は、ぜひお出かけください。

 

(とうふ)

2020年03月30日 (月) 能楽関連

初企画「おとな狂言ワークショップ」を開催しました。

2月7日(金)、2月14日(金)、2月21日(金)に全3回の「おとな狂言ワークショップ」を開催しました。横浜能楽堂では、平成14年から「こども狂言ワークショップ」を継続して開催しておりご好評をいただいています。本企画は、そのおとな版を初めて開催する試みでした。参加者は約30名で、年代は40代から70代とまさに「おとな」。狂言方大蔵流山本東次郎家の則重師と則秀師に、足の運び、扇の使い方、謡と小舞など狂言の基礎を実技指導していただきました。最終日には本舞台に上がってお稽古の成果を発表する、という内容。ここで少しご紹介させていただきます。

 

第1回目
第二舞台で小舞「盃」のお手本を見てから、足の運びと扇の使い方のお稽古をしました。
お稽古のゴールとして、則秀先生から狂言「柿山伏」をパートに分けて少しずつ担当してリレー方式で演じるご提案がありました。参加者の皆さんの合意のもと、最終日に本舞台に上がり、全員で「柿山伏」を演じることになりました。ゴールを設定してお稽古スタートです。

 

参加者の感想
・第1回目にもかかわらず懇切な解説と指導があった。間近に先生方の演技、練習の様子を拝見して感激した。
・カリキュラムを事前に発表してもらえたら。ついていくのがむずかしい。人数も少し多いかな。

 

第2回目
第二舞台で「柿山伏」のお手本を見てから、「盃」の謡と小舞を練習しました。「柿山伏」の詞章を30のパートに分け、各自の担当部分をご自宅で確認したしていただくよう宿題になりました。

 

参加者の感想
・前回の復習があり、わかりやすかった。事前に、当日のプログラムがわかっていたらよりよかった。
・むずかしい。もっと基本から。人によってちがうから。レベルに合わせて欲しい。扇の使い方は出来ない人には別に教えて欲しかった。

 

第3回目
当初は、本舞台での発表は「盃」の謡と小舞、「柿山伏」をリレー方式で全員で演じました。

 

 

また、切戸口の出入りの所作もお稽古しました。

 

そして、本舞台に移動し、全員で「柿山伏」を通しで練習、いよいよ発表タイムへ。発表会には、ご家族・関係者の見学もありました。
まずは「盃」の謡と小舞です。第二舞台の時より更に堂々としていらっしゃいます。

 

一旦切戸口から下がります。出入りの所作も第二舞台でのお稽古通り順調です。

 

そしていよいよリレー方式でつなぐ「柿山伏」を発表。
山伏が揚幕から出て「貝をも持たぬ山伏が、貝をも持たぬ山伏が、道々 うそを吹こうよ・・・」から始まりました。

 

 

 

則重先生・則秀先生のフォローがあり、最後まで無事につながりました。私は見所側から見ていたのですが、皆さまの気迫に圧倒されていました。
発表後には第二舞台に戻り質疑応答。こうして全3回のワークショップが無事に終わりました。

 

全3回を通しての感想をご紹介します。
・短い間ではあったが能楽堂のサポートもあり、楽しく又勿体ない位のご指導を頂き良い経験になった。
・プロの方に直接指導を受けられる体験は大変貴重でした。腹から声を機会はそうないので、それも得がたい体験でした。さらに能舞台に上げさせていただけたのはすごく大きな体験でした。

 

ご参加いただきました皆さま、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。お仕事等でお忙しい中、3週連続の金曜日の夜にワークショップに参加するということにはご苦労のあった方もいらっしゃったと思います。また、今回は初の試みでしたので、運営上至らない点も多々あったのではないかと思います。
今思いますと、もし1週間遅れた日程で開催していたら、新型コロナウィルス感染症拡大防止対策のため3回目は開催できていなかったかもしれません。あらためて全3回を無事に開催できたことに感謝いたします。

 

来年度につきまして企画はこれからですが、皆さまのご期待にそえるようなワークショップを開催していきたいと考えております。只今臨時休館中ではありますが、事態が収束しましたらまたぜひ能楽堂にお越しくださいね。

 

はぜの木

2020年03月30日 (月) 能楽関連

「能楽師(シテ方)が案内する横浜能楽堂見学と能楽ワークショップ」を開催しました。

ログアップがすっかり遅くなってしまいました・・・。
令和2年2月1日(土)に「能楽師(シテ方)が案内する横浜能楽堂見学と能楽ワークショップ」を開催しました。案内役はシテ方観世流の梅若紀彰師です。10:00の回23名、19:00の回26名の皆さまにご参加いただきました。本当にありがとうございました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止対策についての報道が連日流れ、少し気分も落ち込みがちですが、ワークショップ当日の楽しい様子をお伝えできれば幸いです。

まずは第二舞台で扇の持ち方の説明のあとお稽古をスタート。3グループに分かれて順番に能舞台に上がり、「構(カマ)エ」、「運(ハコ)ビ」、「サシ込(コ)ミ」、「ヒラキ」という能の所作を体験してみました。
紀彰先生のご説明では、能の動きはこれ以上ない最小限の動きであり、ロボットの「ASIMO(アシモ)」の重心の取り方、身体の使い方に似ているとのことでした。もしかしたら、ロボット開発には能の舞の型が参考にされているのでは?

 

舞台上でお稽古しているグループだけでなく、下で待っているグループも真剣そのものでした。

 

そして本舞台に移動して先生のお話の後に、参加者だけに仕舞を披露してくださいました。とっても贅沢な時間でした。

 

見所を後にして舞台裏見学をスタート。
装束の間では、夕顔の精の「半蔀」用に制作された装束を見学しました。紀彰先生がお持ちくださった装束で、昨年主催された日仏交流160周年の公演「伽羅沙 GARASHA」では、駐日フランス大使のローラン・ピックさんが着たそうです。

 

鏡の間では、面を見学しました。手前から、小面、若女、般若、獅子口(ししぐち)の面です。

 

面には全ての表情が包含されておりちょっと動いただけでも表情が出てしまうため、面をかけたら動かないことが大事だとのことでした。

 

面をかけるととても視野が狭くなるということを、紀彰先生がひとりひとりに体験させてくださいました。

 

終了後のアンケートには多くの皆さまにご協力いただきありがとうございました。
ここで自由意見を少しご紹介します。

・普段なら決して入れない場所に入れて面白かった。舞台のつくりもたくさんの意味や工夫があり、興味深かった(10代女性)。
・足運びや腕の動かし方など、面白い身体の使い方を知ることができた。(20代男性)
・紀彰先生のご説明はとても論理的で、でも具体的でとても分かりやすくすごく勉強になりました!(40代女性)
・足さばきの指導、先生のお話を通して舞台を見る時の理解が深まったと思います。充実していて楽しかったです。(40代女性)
・能楽師の方から舞台の活きたあり方を説明されたこと自体が響き入りました。(60代男性)
・舞台でのワークショップの時間を長くとってくださり、個人個人にも助言くださった。又、貴重な面を持参してくださり、面もつけさせていただいた。(60代女性)

 

 

ワークショップ番外編

個人的には、紀彰先生のお召し物をいつも楽しみにしています。この日は、遠目には紺地のお着物と薄茶の袴に見えますが・・・、近くでよお~く拝見しますと、お着物は黒・墨・紺などがミックスした織で、袴は黒と黄色の細い縞でした。素敵過ぎます!!!

 

新型コロナウイルス感染症拡大防止対策のため3月の主催事業はすべて中止となり、只今臨時休館中です。公演やワークショップ、施設見学会が行えることが実は当たり前ではないということを改めて実感しております。事態が収束して、また皆さまにお目にかかれる日を楽しみにしております。

 

 

はぜの木

2020年03月30日 (月) その他

「一閑張り作り体験と横浜能楽堂見学」を開催しました。

2月21日(金)10:00から、「一閑張り作り体験と横浜能楽堂見学」を開催しました。
一閑張りは古くから日本に伝わる伝統工芸の一つ。今回は米袋を使って、世界で一つだけのオリジナルミニショルダーバッグを作りました。バッグに塗った柿渋が乾くまで、横浜能楽堂の本舞台と楽屋等のバックヤード見学付。当日の様子をお知らせします。

講師は一閑張り利庵 鏡原さんです。はじめに鏡原さんから一閑張りのお話。写真のバッグはカゴに布を張って柿渋で仕上げた作品。お道具入れとして愛用されている実用品です。

 

いよいよスタート、まずは米袋からバッグ本体と取っ手を切っていきます。取っ手の切り方に技あり!でした。米袋を無駄なく使っています。

 

切った本体に取っ手を取り付け、はと目で穴をあけます。

そして、和紙を思い思いのデザインで張っていきます。ここが一番楽しいところですね。

 

張り終わった方から柿渋を塗ります。うすく塗るのがコツだそうです。

 

柿渋を塗ったバッグを乾燥している間に施設見学へ。

 

 

見学から戻るとバッグは程よく乾燥、はと目であけた穴に紐を通して、もやい結びで結んで完成です。

 

第二舞台の前で、はいポーズ!みんな違ってみんないい、世界で一つだけのオリジナルミニショルダーバッグができました。

 

 

鏡原さんとお手伝いいただいた内田さんです。ちなみに鏡原さんはショルダーバッグで犬のお散歩に行かれるそうです。

 

 

ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。オリジナルミニショルダーバッグをどうかご愛用ください。

 

和のものづくり体験の講座・ワークショップ等は、今まで能楽にはあまり馴染みが無かったけれど、ものづくりに興味がある、日本文化に興味がある方を対象にした催しで、これをきっかけにしてまた能楽堂に見学や公演鑑賞にお越しいただければとても嬉しいです。来年度も企画いたします。皆さまどうぞお楽しみに~。

 

はぜの木

 

 

 

 

 

 

2020年02月05日 (水) 能楽関連

「能楽師(狂言方)が案内する横浜能楽堂見学と狂言ワークショップ」を開催しました。

令和2年1月17日(金)に「能楽師(狂言方)が案内する横浜能楽堂見学と狂言ワークショップ」を開催しました。案内役は狂言方大蔵流の山本則秀師とそのお兄さんの則重師です。10:00の回19名、19:00の回17名の皆さまにご参加いただきました。本当にありがとうございました。

 

当日は、第二舞台で則秀師のお話と体験、見所に移動して鑑賞と舞台説明、楽屋裏見学と本舞台を歩く体験、2階展示廊の「山本東次郎家の装束展」見学、第二舞台に戻り質疑応答という、盛りだくさんなプログラムの2時間でした。中でも、参加者のためだけの狂言「鎌腹」(一部)鑑賞や、山本東次郎家の装束を東次郎家の則秀師が解説する展示見学はとても贅沢な内容でした。

 

第二舞台での体験

狂言「鎌腹」(一部)の鑑賞

本舞台を歩く体験

 

全体を通して、則重師と則秀師のお人柄が垣間見えるお話が私はとても印象的でした。そのいくつかをご紹介します。

 

「狂言の祝言性」

愚かな人間はいませんが、愚かしいことをしてしまう人間がいるものなので、狂言の主題には身の回りのちょっと悪い人が出てきて争いになるものがあります。1人と1人の争いやけんかが大きくなると戦争になってしまいます。戦争という題材を直接扱うのではなく身の回りの争いを題材にして、けんかをしてはいけないという気づきを大切にしているそうです。山本家では、世の中が平和になるように狂言の祝言性をとても大切にしているというお話です。

 

「楽屋の様子」

楽屋にいる心持としては、既に楽屋にいながら舞台に出ているような厳しさで常に姿勢を正しています。楽屋の間仕切りの戸襖を開けておくのは、誰からどう見られていても恥ずかしくないように気を配り、その日に出演する全ての能楽師全員で舞台をつくりあげる一体感の醸成ということです。

 

650年の歴史」

2016年にギリシャのエピダウロスという劇場で古代ギリシャの長編叙事詩「ネキア」を題材にした新作に参加した際のお話です。マルマリノスという演出家が能という手法を取り入れないと実現できないと言っていたそうです。やってみると、能楽師は持っているものですぐにできてしまい、演出家はもっと演出したかったのではないかと・・・。650年の間に積み重ねてきた、様式と型が他には無いからでしょう。能楽にはお金で買えない価値があり、650年の歴史は世界で通用すると思うのです、というお話でした。

 

最後の質疑応答は、参加者の皆さまの質問内容がすばらしく、山本則重師・則秀師兄弟との双方向のコミュニケーションにより、第二舞台にとてもよい時間が流れていました。いくつかの質疑応答内容をここでご紹介いたします。

 

Q.台本は変わらないのですか?

A.大事なところは変わらないのですが、変わっている部分もあります。たとえば「かしこまってござる」と「心得ました」はどちらもYESという意味ですが、どちらを使うかは時代で変わることがあります。また、「鎌腹」の結末には2パターンあり、替えの型として伝承しています。

 

Q.現代の言葉も使用していますか?言葉は変わっているのですか?

A.現代語は使用していません。聞き慣れた言葉だとしたら昔からある言葉なのです。初代・二代・三代の東次郎が生き返って四世東次郎と四人で狂言をやったらすぐにできるくらいの言葉の変化しかありません。

 

Q.「義経」はなぜ子どもがやるのですか?

A.弱いものの象徴として子どもを置くことで、リアルな気持ちになれるのです。日本人は弱いところに心を動かされる気質があるので、そのための演出です。「屋島」では強い義経なのでこの場合はおとなが演じます。

 

Q.装束はいつ頃のものなのですか?

A.面は大事にしているのでいたまないため500~600年前のものです。ただし、海外公演の際には古い面の写しを使います。装束は大事にしてもいたんで折り切れができます。今使用しているものはだいたい昭和40年頃から毎年少しずつ作ってきた現在のものまでです。切れると新しいものをつくりますが、古い装束は捨てることはないのでどんどん増えていきます。

 

Q.個性・持ち味を出すということは考えるのですか?

A.それは考えないです。個性を消した中で残ったもの、消しても出てくるものが個性です。60才までは個性を出してはだめ、60才を過ぎたら+αしてもよいといわれています。

 

Q.終演の拍手はどうすればいいでしょうか?

A.演者の最後にする、余韻を楽しみたい方もいるのでいらない、拍手の風習は西洋からきたものだからしなくていい、など諸説あります。演者としてはあっても無くてもいいですが、自然な反応が舞台の良し悪しであり、自分の成長にもつながるので、あった方がいいとも思います。

 

Q.これから狂言を楽しむにあたり参考図書はありますか?

A.いくつかご紹介します。

・「日本古典文学大系 42 狂言集 上 」「日本古典文学大系 43 狂言集 下 」岩波書店

・「狂言のすすめ」玉川大学出版部

・「狂言を継ぐ-山本東次郎家の教え」三省堂

 

ご参加の皆さまにはアンケートにご協力いただきありがとうございました。来年度のワークショップの企画の参考にさせていただきます。またのご来館を心よりお待ちしております。

 

はぜの木

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