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2018年02年06日 (火) 公演情報
和泉式部と梅の花

寒いですね。こう寒いと、出歩くのが億劫になってしまい、休みの日は家で過ごしてしまいがちです。

先日の積雪のあと。家の雪かきをしていたら、梅に一羽のメジロがやってきました。枝に雪が積もり、どこに花があるのか、すぐには分からない状況だったのですが、メジロは上手に花を啄み、飛び去って行きました。風情があって、歌の題材にでもなりそうな光景でしたが、歌心などない私は、ただ、ほのぼのとするばかりでした。

 

 

さて、梅と言えば2月10日に企画公演「能の花 能を彩る花」第4回「梅」が開催されます。上演される曲は「東北(とうぼく)」。和泉式部の霊が自らが愛した東北院の「軒端の梅」と和歌の徳について語り舞う、梅の花のような格調高い美しさに満ちた曲です。

 

この曲、特に典拠となる作品は存在しないようで、和泉式部が「軒端の梅」を植えたという話も存在しないようです。和泉式部と梅の花というと、京都の祇園祭の山鉾の一つ、「保昌山」の題材にもなっている、藤原保昌が和泉式部に紫宸殿の梅の一枝が欲しいと頼まれ、警護の北面武士に矢を射掛けられながらも一枝を持ち帰り、結ばれたというエピソードが有名ですが、「東北」では全く触れられません。

 

 

それどころか、名歌人として知られる和泉式部の歌は一首も詞章に用いられていないようです。

 

「東北」の中に登場する歌で、印象的な歌と言えば、序之舞の後に謡われる

 

春の夜の闇はあやなし梅の花 色こそ見えね香やは隠るる

 

ではないでしょうか。虎屋の羊羹「夜の梅」もこの歌から名がついており、ご存知の方の多いと思いますが、古今集に収められている凡河内躬恒の歌です。夜の東北院に香る梅の花という情景を豊かに想像させる歌だと思うのですが、ここで和泉式部の歌を引用するという選択肢はなかったのでしょうか。

 

 

調べてみると和泉式部が梅を詠んだ歌はいくつかあるようです。「春の夜の~」の歌に似ているものだと、

 

梅が香におどろかれつつ春の夜の 闇こそ人はあくがらしけれ

 

この歌も梅の香りが漂ってくるようで、素敵な歌に思えますが、「おどろかれつつ」や「あくがらしけれ」は、なかなかインパクトのある言葉で、春の夜の静かな雰囲気とは趣を異にする感じがします。また別の歌に、

 

梅の香を君によそへてみるからに 花のをり知る身ともなるかな

 

というのもありますが、この歌は相手となる存在が感じられ、やはり「東北」には合わない気がします。ここはやはり客観的に夜の梅の香を詠んだ「春の夜の~」の歌が一番しっくりくるようです。

 

考えてみると「東北」は、和泉式部がシテでありながら、和泉式部らしさを極力描かないようにしているようにも感じます。曲名からして「東北」。能に詳しくない人が聞いたら東北地方の話かと思うかもしれません。(ちなみに古くは「軒端梅」という曲名だったそうです)

 

調べれば調べるほど、作者は何を描こうとしたのか、なぜ和泉式部をシテに選んだのか、奥深さを感じます。2月10日は、どんな「東北」を見せてくれるのでしょう。人間国宝の大槻文藏さんの舞、池坊専好さんのいけばな、と見どころ沢山の公演です。お楽しみに!

 

 

 

♦公演情報♦

 

 

横浜能楽堂企画公演「能の花 能を彩る花」第4回「梅」

2018年2月10日(土)14:00開演(13:00開場)

能「東北」(観世流)大槻文藏

チケット僅少です。

 

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